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「オイちゃん、さくら、いま帰ったよ」という主人公寅さんの声を聞くだけで、郷愁が胸いっぱいに広がってくる人も多いようである。 この作品のなかで、寅さんが帰ってくる家とは、東京の下町、葛飾は柴又にある団子屋である。
そこには、人のいいオイちゃんとオバちゃん、そして妹さくらがいる。 「家があってはじめて家族がある」といわれるように、この人気シリーズを支える重要な要素として古い町家(団子屋。
とらや”)は欠かせないものと思われる。 旅に出た寅さんが、突然むしょうに”家族”に会いたくなって帰ってきてしまうのも、生活のにおいがする家にやすらぎをおぼえるからではなかろうか。
生活のにおいのする家というものは、きわめて母性的なものであり、そこへ入ってしまうと寅さんならずとも、人間は子どものようになってしまうものである。 家には本来、そうした人間を包みこんでしまうような母性が備わっているもので、それが心理的なやすらぎにつながってゆくのである。
新しく住まいをつくろうという人にとって、自分が育った家を思い出してみることは大いに役に立つことである。 たとえ小さな家であったにしても、そこは気持がやすまる場所であったはずだ。
幼いころ、6畳の部屋がたいそう広く感じられ、そこで一日中遊んだ記憶をもつ人も多いと思う。 そして、いくつかの家具やラジオがどこに置かれていたのかもはっきりとおぼえているのではなかろうか。
ところが、最近の住宅にはものがはんらんし、落ち着いた空間とはほど遠い家が多いようだ。 たしかに、家の中にはりっぱなものや、便利なものが、収納しきれないほどぎっしりつまっているのだが、なぜか生活のにおいが感じられないのである。
このことは、決して家の狭さに起因するものではない。 昔はものの数が少なかったせいか、ひとつのものを大切に使い、壊れたら自分で修理するなどして、すぐに買い替えたりはしなかった。

また、もののほうも、末長く使えるようにできていたのである。 いまは、商売でもうけようとするなら使い捨てのものを売れ、などといわれる時代で、われわれは、使わなくなった道具やら、なじみのうすい新品にかこまれて暮らしている。
これでは、やすらぎなど生まれるはずがないのである。 そのうえ、いまはものを捨てるにも金のかかる時代となっている。
捨てることすら簡単ではないのである。 粗大ゴミをいかにつくり出さないか、を考えることがもっとも重要である。

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